ダリエンソカップ5 採点分析②(数値編)
— 数字は、どこまで語るのか —
大会を作る側にいると、採点はいつも“緊張点”になります。
タンゴは多様性の文化で、評価には必ず主観が混ざる。だからこそ、意見や感情のぶつかり合いに寄せるのではなく、「何が起きているか」を一度データで確かめる必要があると考えました。
今回の分析は、採点の善し悪しを断定するためのものではありません。
運営としての責任は「完璧な答えを言い切ること」ではなく、検証できるものは検証し、見える形で共有することにあると思っています。
この記事の後半には、実際の表(Noのみ・審査員はイニシャル)を掲載しています。
ここではまず、何を見て、どう読み取ったのか――整理します。
目次
- ◼︎ダリエンソカップ採点分析
- 0. この分析で見たもの(共通)
- ① 点の“割れ”
- ② 集計方法を変えたときの“順位の動き”
- 1. まず全体像:順位はどの程度“揺れる”のか
- 2. “割れ”の幅:予選ではどれくらい点が開くのか
- 3. PAIR TANGO 部門
- 3-1 予選:順位の形はほとんど変わらない
- 3-2 準決勝:並びは動くが、進出の顔ぶれは揃う
- 3-3 決勝:上位は固定され、入れ替わりは細部に出る
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0. この分析で見たもの(共通)
全カテゴリー共通で、見たのは2点だけ。
① 点の“割れ”
審査員が複数いる以上、評価が揃うこともあれば割れることもある。
そこで各演技(各ペア)ごとに、審査員の点数の中で
- 最高点 − 最低点
がどれくらいあるかを確認した。
この値が大きいほど、その演技は“評価が割れた”と言える。
② 集計方法を変えたときの“順位の動き”
公式の順位は、ラウンドごとの審査員合計で決まる。
一方で検証用として、各演技ごとに
- 最高点と最低点を除いた真ん中の人数の合計(中央集計)
でも順位を作り、公式順位と比較した。
ここで見たのは
- 順位の一致度(相関係数ρ)
- どれくらい順位が入れ替わるか
の2つである。(詳細は掲載済みの「ラウンド別相関係数表」「順位比較表」を参照)
1. まず全体像:順位はどの程度“揺れる”のか
掲載済みのサマリーテーブルを見ると、各ラウンドの順位一致度(ρ)は
- 0.92〜0.99
の範囲に収まっている。
これは「集計方法を変えても、順位の並びが大きく崩れにくい」ことを示す一つの材料になる。
一方で、0.92台が出ているラウンドもある。
つまり「まったく動かない」のではなく、動く場面と動かない場面がある。
その差がどこで出ているかを、部門ごとに見ていく。
2. “割れ”の幅:予選ではどれくらい点が開くのか
予選(9名採点)について、各エントリーの
- 最高点 − 最低点
- の分布は、掲載済みの表の通り。
- 最小は 0.5〜0.6点
- 最大は 1.75〜2.0点
- 平均は 約1.1点前後
に収まっている。
ここで重要なのは、特定の部門だけ極端に荒れているわけではなく、
複数部門で似た幅に分布していることだ。
つまり予選全体としては、「評価が割れる/揃う」は局所的に起きるが、
一部だけ異常に逸脱している構造は目立たない。
(具体例は、掲載済みの「Max−Min上位No一覧」を参照)
3. PAIR TANGO 部門
3-1 予選:順位の形はほとんど変わらない
予選では、公式(9人合計)と中央集計(中央7人合計)を比べると、
- 33組中、順位が変わらない組が多数
- 変わったとしても、±1位の入れ替わりに留まる
という形になっている(詳細は掲載済みの予選順位比較表)。
これは「誰か1人の点数の影響で、順位が大きく跳ぶ/落ちる」よりも、
複数審査員の合意に近い形で順位が形成されていることを示す材料になりうる。
3-2 準決勝:並びは動くが、進出の顔ぶれは揃う
準決勝では、順位の入れ替わりは予選より増える。
それでも、決勝進出に関しては、進む顔ぶれは同じだった(掲載済みの比較表より)。
ここで見えてくるのは、
順位の細部は動いても、“上位グループ”としてまとまっている層は動きにくいということ。
3-3 決勝:上位は固定され、入れ替わりは細部に出る
決勝では、公式順位と中央集計順位は一致度が高く、さらに
- 1〜3位の並びは一致
している(掲載済みの決勝順位比較表)。
入れ替わりが起きるのは、主に4位以下の細部であり、
「勝敗そのもの」をひっくり返すような形は見えない。
4. JJ TANGO Follower 部門
4-1 予選:中盤での入れ替わりが起きやすい
Follower予選は、上位と下位の大枠は近い形を保ちつつ、
中盤で順位が前後しやすい(最大±4位程度)という特徴が見える。
つまり、同じ“予選”でも、Pairのような安定性より、
横並びの層が多く、順位が詰まりやすいラウンドだったと言える。
4-2 準決勝:決勝進出ラインは「1枠だけ動く」
準決勝(5名採点)では、中央集計で見ても、
- 上位10枠のうち9枠が共通
- 1枠だけ入れ替わる
という形になっている(掲載済みの準決勝比較表)。
この結果は、「決勝進出の境界線付近では、集計方法の違いが1枠ぶんの違いとして出る」という読み方ができる。
4-3 決勝:上位は動かず、入れ替わりは4〜9位帯に出る
決勝では順位の一致度が他より下がるが、
それでも
- 1〜3位は一致
している(掲載済みの決勝比較表)。
差が出るのは4位以下。
つまり、この部門は「勝者の決定」よりも、
中位帯の並び替えとして差が現れやすい。
5. JJ TANGO Leader 部門
5-1 予選:同一Noの複数演技も含め、順位の大枠は保たれる
Leader予選は、同一Noで複数回踊った演技も別エントリーとして扱っている。それでも、公式と中央集計の順位の一致度は高く、
予選としての構造は大きく崩れない(掲載済みの相関表・予選比較表)。
5-2 準決勝:順位は動くが、決勝進出の顔ぶれは揃う
Leader準決勝(4名採点)は、ラウンド別の中でも順位が動きやすい。
実際、±5位の変動が出るケースもある(掲載済みの全20件表参照)。
ただし同時に、決勝進出(上位10枠)の顔ぶれは、
中央集計で見ても変わらない。つまりここでも「境界線の入れ替え」というより、“並び順”の変動として現れている。
5-3 決勝:上位の顔ぶれは同じまま、微細な入れ替わり
決勝は一致度が高く、
上位の顔ぶれは保たれたまま、入れ替わりは小さい範囲に留まっている
(掲載済みの決勝比較表参照)。
まとめ
今回、全カテゴリー共通で見たのはシンプルに2つです。
ひとつは点の割れ(Max−Min)。もうひとつは集計方法を変えたときの順位の動きです。公式(合計)と、最高点・最低点を除いた中央集計を並べてみると、全体の順位構造は大きく崩れず、相関(ρ)は概ね高い値に収まりました。一方で、ラウンドや部門によっては、順位が動きやすい帯域も確かに存在します。
そして最も注目したいのは、順位の差が出る場所が「大会全体をひっくり返す」というより、主に
- 予選・準決の境界線付近(1枠ぶん)
- 決勝の4位以下の並び替え
に現れやすい、という傾向です。
もちろん、これをどう受け止めるかは人によって違います。
「この程度を誤差と見るか」「境界線の1枠を重く見るか」「全員合計と中央集計、どちらの考え方が好みに近いか」。
その判断材料として、表を“見える形”で置く――それが今回の目的です。
採点は、誰かの努力の記録でもあり、大会の信頼の土台でもあります。
だからこそ運営としては、来年以降も「結果」だけではなく、仕組みがどう働いたかを検証し、必要があれば改善し続けます。
付録(読み方のガイド)
- Max−Min:評価の割れやすさの目安
- Δ(TrimRank−Rank):中央集計で見たとき、順位がどちらに動くか
- ρ(相関):順位の並びがどれくらい近いか
◼︎分析数値編:全体サマリー
全体0-1:順位はどれくらい動く?
- 順位相関ρ:1.000に近いほど、並びがほぼ同じ
- 順位変動(件):公式順位と中央集計順位が一致しなかったNoの数
- 最大変動(|Δ|):動いた順位の最大(±何位)

全体0-2:審査員間の“割れ”の目安(最高点−最低点)

1:PAIR TANGO
審査員:FG, EY, CS, VA, HI, NO, MN, FR, KO
1-1 予選:順位比較表(公式合計 vs 中央集計)



1-2 予選:最高点−最低点が大きいNo(上位7)

1-3 準決勝:順位比較表

全件の表(20件)


1-4 決勝:順位比較表

◼︎2:JJ TANGO Follower
審査員(イニシャル)
- 予選:AO, LA, LL, NA, MN, LM, RE, JO, MA
- 準決/決勝:LA, NA, MN, RE, MA
2-1 予選:順位比較表(38件)



2-2 予選:最高点−最低点が大きいNo(上位7)

2-3 準決勝:順位比較(抜粋:|Δ|≥2)

全件の表(20件)


2-4 決勝:順位比較表(10件)

◼︎3:JJ TANGO Leader
※予選は「同じNoで複数回踊った演技」もあり、表では No-1 / No-2 のように区別しています。
審査員
- 予選:AO, LA, LL, NA, MN, LM, RE, JO, MA
- 準決:AO, LL, LM, JO
- 決勝:LA, NA, MN, RE
3-1 予選:順位比較表(34件)



3-2 準決勝:順位比較(抜粋:|Δ|≥2)

全件の表(20件)
準決勝


3-3 決勝:順位比較表

GYU
